体がだるい、やる気が起きない、寝ても疲れが取れない、そもそも寝られない、睡眠時間が足りない、朝起きても体がだるくて布団から出られない、etc
これらの症状はやる気の問題で片付けられやすく、問題になることが少ない。昔ながらの上司であれば根性が足りないと一喝されて終わることも少なく無いだろう。しかし、疲労感は確かな体からの危険サインであることが多く、放置すると仕事の効率低下や成果の減退に確実に結びつく。
現代人は総じて疲労感を抱えている
疲労感は現代人に多い症状であり、所謂現代病と言っても差し支え無いだろう。これは人体の進化の過程で得た性質と現代の生活環境のミスマッチが引き起こすものだと言う。この進化のミスマッチはなぜ生じてしまうのか。
食糧難を生き抜くために進化した人体と食料過多な現代
ヒトは数十万年の時を狩猟採集民として過ごしてきた。その間、常にさらされてきたのは食糧難という壁である。農耕が確立し、穀物が安定的に供給されるようになったのは約1万年前であるし、農耕にしても天候や災害に左右されてきた。食料が過多に供給されるようになったのは機械化と輸送の高度化が進んだここ100年ほどの話であり、それまでの人類は常に食料を求めて歩き回っていたのである。
飢餓との戦いの中で、生き残るために必要であったのはエネルギーを蓄える能力である。1日に何度も安定的に獲物が手に入った訳では無いのは想像に難くない。では手に入った獲物を食し、そのエネルギーをより多く蓄えた方が生き残る確率が高かったのは自明の理である。つまり、我々の先祖はより多くのエネルギーを蓄えやすく進化してきているのである。ついでに高カロリーなものは生きるために必要であると本能的に認識しているので、意思でやめるのが難しいくらい魅力的に映る。
精神的なストレス
我々の体の根源たる狩猟採集民は、常に肉食動物から狙われるリスクも負っていたため、危険察知能力も向上したと思われる。ヒトが危機を察知した時、命を守るために体が攻撃できるよう備え始める。心拍は向上し毛細血管は収縮する。目は血走り、臓器への血流を低下させる。交感神経の活動が活発化するためである。
現代人は日々のストレスによりこの危機察知システムを稼働しているのである。過度なストレスが生じると、このシステムが過剰反応するか、常に稼働している状態となり、息をつく暇も無くなる。
疲労感の原因は炎症反応
疲労感の原因は結論から言うと炎症反応である。急にそんなこと言われても分からないと思うので、炎症反応とは何かというところから説明しよう。
炎症反応は体が何らかのダメージを受けたときに稼働される。膝を擦りむいたとき、血液が集まっていき出血をとめ、徐々にかさぶたとなる。加齢と共に膝の軟骨がすり減り、膝に水がたまる。花粉を吸い込んでしまい、異物と認定されることで過度に鼻水が出るなどアレルギー反応が起こる。これらは炎症反応であるが、この反応のレベルが強ければ、倦怠感やパフォーマンスの低下、さらには風邪のように体温が上昇し、発熱の状態となる。
一気にダメージを受けると急性炎症として分かりやすく病気の状態となるが、現代病である食料過多や精神的ストレスは徐々に身体を蝕んでいき、慢性炎症を引き起こすことで問題を顕在化させる。
肥満という病気
食料過多である現代では、エネルギーを貯めることに長けている元狩猟採集民の私たちは、ご存じの通り太りやすい環境にある。高カロリーの食事を続けていると、やがて脂肪が体中に蓄積していくが、この脂肪組織がやっかいである。
なぜかと言うと、脂肪組織は体にとって異物であると認識されるので、免疫システムを動かし、炎症性物質を放出するのである。これらの物質が臓器に炎症を引き起こすことで、パフォーマンスの低下に繋がる。
内臓脂肪が減らない限りは炎症はじわじわと体で燃え続け、徐々に臓器は蝕まれていく。疲労感が増加し、内臓脂肪はさらに増えていくという悪循環に陥る。これが肥満という病気が抱える問題点であり、疲労感に繋がる原因である。
精神的なストレスと炎症
炎症反応は炎症性の物質を放出するが、鬱病患者の多くにサイトカインという炎症性の物質が増加したという報告が増えている。サイトカインが鬱病を引き起こす経路までは分かっていないが、鬱病はホルモンバランスの乱れであるという現代の常識に一石を投じる仮説が出てきているのである。
精神的なストレスは一日で終わることは少なく、常に毎日生じるものである。つまり、常に炎症反応は起き続け、慢性炎症にように我々の体を蝕んでいく。そしてそれは疲労感となって我々が自覚できる形で表に出てくる。
炎症反応の改善と疲労感
では、炎症反応を改善し疲労感を改善するためにはどうしていくのが良いのか。
狩猟採集民族の炎症レベルは低い
1989年人類学者のスタファン・リンデベリによって、現存する最も原始的な生活に身を置くとされるパプアニューギニアのキタヴァ族を対象に、健康調査が実施された。それによると脳卒中や動脈硬化にかかるケースは無く、糖尿病の発症率は約1%(日本では約15%の発症率)だったとか。
この調査によると、慢性炎症に由来する病気がほぼ存在しないと報告されている。現代的な生活に身を置く彼らと我々とでは遺伝子的には大差は無いはず。つまり、食料と生活環境こそが炎症レベル改善の鍵となるはずである。
食事とストレス
分かってはいるが、やめられないのがファストフード、深夜のラーメン、酒、お菓子である。これら高カロリーの食事を続けていると慢性炎症は永遠に終わらず、疲労感は貯まる一方である。当たり前のことであるが、野菜中心のバランスの取れた食生活をすることは疲労感を改善するために重要なのである。
休日まで仕事のことを悩まなければいけないのならそれはストレス過剰である。そうなる前に目の前のことを自力で対処するか、職場を変えるか、日々の生活の中でストレスを軽減させていくか、何か改善の糸口を見つけたいものである、
まとめ
・進化の過程で人間は脂肪を溜め込むように、危機を察知できるように進化している。この性質と現代の環境がミスマッチであるために、様々な症状が生じる。疲労感はその代表的なもの。
・疲労感は炎症反応が原因であり、高カロリーの食事や精神的ストレスによって慢性炎症を引き越し、徐々に体を蝕んでいく。
・疲労感を改善するには、野菜中心のバランスの良い食事、ストレスをコントロールし過剰なストレスとならないよう生活することで炎症反応をコントロールする。
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